■高瀬紅と紫藤晶のお話
「お前ら幼なじみなんだってな〜」
その少しからかいを含んだ声色に、意識せずとも眉間に皺がよる。
学園の心理カウンセラー?やめた方が良いんじゃねーの?
俺はカウンセリングどころか、神経逆なでされた事しか無い。
とにかく俺はこいつが苦手だった。
「何ですか、それ。誰の、」
「ほら、2年の転入生だよ。えーっとなんだっけ、ああ、水野!そうそう、水野って子」
口からため息が漏れる。
引き合わせたくなかった2人が合っていた事に俺は落胆を隠しきれなかった。
よりによってなんであいつが。そもそもなんで俺たちが幼なじみってバレたんだ?
「何で知ってるんだって顔してるな」
「別に」
「心理カウンセラーなめんなよ〜」
ふと何か気になってやつの顔を見る。
と、声は確かに親しげに話しかけていたのに、目が笑っていなかった。
こういうところも苦手な部分のひとつだ。つかめない。
「蒼だよ蒼。この間さ、勉強会の時、たまたま水野も相談室にいたから、それで」
そうだよ、蒼が心理学をこいつに習うって聞いたときも、俺は反対だったのに。
どうしてもって聞かなかったからしかなたく・・・っていうか、
あいつが相談室!?
「ちょ、結衣がなんで相談室なんて、なんかあったんですか!?」
あいつなんだかんだで強がるから、本当はつらいことがあったんじゃないか?
だけどそれを俺にも言えないで、だからこいつのとこに?
ぐるぐる頭の中を嫌な想像だけが駆け巡っていく。
あいつの泣いてる顔なんて、もう見たくないのに。
「あいつ、なんか言ってましたか?!何が嫌だとか、何がつらいとか、」
「おい、」
「いいです、教えられないなら俺が直接聞きますから、それじゃ」
「おいって!!お前、少し落ち着け」
肩をつかまれてはっとなる。目の前には驚いている紫藤先生の顔があった。
「あ 、すいません」
「んー。つーか水野のことだけど、聞きにいかなくても大丈夫だって」
「え、」
「取越に強制的につれられて来たみたいだったから。お茶飲んで、蒼と話して、帰った」
「蒼に確認してみろ」と言って、肩から手が離れると同時に全身に入っていた力が抜ける。
それと同時に安心してため息が出た。あいつに何かあったわけじゃなかった。
「よかった」
「急に取り乱すから焦っただろー。あー無駄に仕事してつかれたわ」
その言葉で我に返れば、俺はこいつの前でとんでもない醜態をさらした気がする。
そもそも俺を宥めたさっきのやり取りが、仕事か!?
嫌な予感がして、感じる視線の先を見れば、
ニヤニヤと笑うやつの目に、がっちり捕らえられていた。
「お、俺これから会議なんで、失礼します」
「お前、水野のことそんなに大事なのな」
「・・・」
「あんまり過保護だとうっとうしいと思われるぞー」
やつのニヤついた目から逃げるために、とにかく歩き続ける。
そんな俺の背中へかけられた言葉に「余計なお世話だ」と悪態をついた。